秋の七草は何?といわれてすぐに答えることができる方は多くないのではないでしょうか。
春の七草はお正月行事の一つである七草粥に使われる食材として有名です。スーパーに行けば一般の食材とともに売られてもいます。
それに対して秋の七草は名前を聞いたことがあるけれど、その種類や役割までは知られていないというのが実情でしょう。
実は秋の七草は食べるものではなく、観賞するものなのです。また、いずれも地味でひっそりとしたイメージの花なのであまり有名ではありません。
けれども、秋の風情を楽しみたいときにはあるとうれしい花々です。
ここでは、そんな秋の七草について由来や種類を解説します。
秋の七草の由来
秋の七草は万葉集巻第八に載せられている山上憶良の詠んだ次の歌に由来するとされています。
山上臣憶良、秋野の花を詠む歌
秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七草の花
「秋の野に咲いている花、その花を、いいか、こうやって指を折って数えてみると、七種の花、そら、七種の花があるんだぞ。」
「一つ萩の花、二つ尾花、三つに葛の花、四つになでしこの花、うんさよう、五つにおみなえし。ほら、それにまだあるぞ、六つ藤袴、七つ朝顔の花。うんさよう、これが秋の七種の花なのさ。」
(『新版 万葉集 二 現代語訳付き』伊藤 博訳注 より引用)
1首目で秋の花には指を折って数えれば7種類あるといい、2首目で具体的な名前をあげている秋の七草の歌は子ども向けに作られたといわれています。それが時代とともに秋の七草として広まったようです。
なお、最後の朝顔の花については、いわゆる朝顔ではなく桔梗の花をさすといわれています。しかしこれについてはいくつかの説があり決まったものではありません。
ちなみに現在、秋の七草はその言葉自体が俳句の季語となっています。そればかりではなく七草すべてが独立した季語として使われているのです。
たとえば、
子の摘める秋七草の茎短か 星野立子
一面に尾花なびける野を急ぐ 本田あふひ
挿しそえてよしと思ひぬ藤袴 柿原美恵女
といった句があります。
いずれも秋の情緒を感じ取る日本人の心の琴線に触れる言葉であり花だったのでしょう。
秋の七草の種類
秋の七草は次の7種類です。
萩 開花時期は6月から10月
尾花 すすきのことです。開花時期は8月から10月
葛 根からとれる葛粉は葛餅の原料となります。開花時期は8月から9月末
なでしこ 花の縁がギザギザになっているのが特徴です。開花時期は5月から8月
女郎花 黄色い小さな花をたくさん咲かせるのが特徴の花です。開花時期は6月から10月
藤袴 開花時期は8月から9月。白い小さな花を茎の先にたくさんつけるのが特徴です。
桔梗 青い花弁が5つに分かれた姿が印象的な花です。開花時期は5月から9月
お月見との関係
お月見は、もともとその年の収穫を祝い来年の豊作を願う祭として日本で行われてきた行事でした。平安時代になって中国から月そのものを鑑賞して楽しむ行事が移入され、時代が下るとともにそれと結びついた日本の「お月見」が行われるようになったのです。
その折に秋の七草のなかで尾花と呼ばれるすすきは神様の依代として、また魔除けとして飾られてきました。現在ではお月見の飾りにすすきは定番となっています。
また、お月見ではすすきだけではなく他の秋の七草も一緒に飾られてきました。澄んだ夜空に浮かぶ月を鑑賞する際に秋の草花を飾ることでより一層の情緒を楽しんできたのでしょう。
まとめ
秋の七草は鑑賞することで秋の風情を楽しむものです。いずれも華やかさはなく地味な花々ですが、それだけに静かで落ち着いた秋の景色になじみますよね。お月見の際に飾るだけではなく、花を探しながら郊外を散策してみるのもよいでしょう。思いもかけない場所で秋が見つかるかもしれません。