季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

秋に使いたい季節の変化を表す言葉

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日本には季節の微妙な変化を表す言葉がいくつもあります。単純に暑い寒いという言葉では説明できないかすかな違いを表現している言葉。

 

たとえば、汗をかきながら歩いている最中、ふと見上げた空にそれまでと違う雰囲気を感じたという経験はありませんか。そのような状況を表すことができる言葉が日本語にはあるのです。

 

ここでは秋に使ってみたい季節の移り変わりを意味する言葉をいくつか紹介します。

 

秋の始まり  残暑、新涼、秋めく 

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毎年8月6日か7日ごろには立秋を迎え、暦のうえでは秋になります。それ以後の暑さを残暑と呼びますが実際には暑さ真っ盛りというほうがぴったりくる時節です。

 

しかし、そんななかでも時おり感じる秋らしさを表すのが秋めくという言葉。実際には8月下旬ころに使われることが多いようですが、この時期でなければならない、ということはありません。

 

立秋を過ぎたころからの陽の光、風、空の色などから感じ取るそこはかとない秋の気配を秋めくという言葉が表しているのです。

 

同じ時期ではありますが、実際に涼しくなってきた感じを表す言葉に新涼があります。秋になって新たに感じた涼しさという意味です。単に涼しいといってもよいところ、あえて新涼という言葉を使うことで秋を表現するのですね。

 

また、俳句では涼しいといえば、夏の季語となります。秋になってから感じる涼しさを表すために新涼もしくは秋涼しという言葉を使うのです。

 

秋半ばのころ 秋澄む、夜長、冷やか 

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秋分の日を過ぎるころから景色が変わってきます。空気が澄み、空の青さを身近に感じるようになってきます。大陸から流れ込む移動性高気圧が乾燥した空気を運んでくるので大気が澄むのです。

 

この時分を表すのが秋澄むという言葉。また、移動性高気圧は冷たい空気も一緒に運んでくるため気温も下がります。冷やかという言葉も同時期から使われるようになります。

冷やかとは秋になって冷え冷えとしてくる感じをいう言葉です。冷たい、というほどではなくちょうどよい寒さといった感覚です。また、俳句では実際の寒さではなく心に感じる寒さを表す意味で使われることもあります。

 

冷かにわれを遠くにおきて見る 富安風生

 

なお、似たような意味を表す言葉として秋冷、朝冷え、夕冷え、雨冷えなどがあります。このうち、秋冷は手紙の挨拶文としてよく使われます。

 

秋冷の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 

また、秋分の日近くなってくると日が暮れるのが早くなり、夜の時間が長く感じられるようになります。この時期は夜長と呼ばれ、読書をはじめとする趣味に取り組む好機です。

 

秋の終わり 秋深し、秋寒、身に入む 

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秋が進んでくると、紅葉する樹々、高く澄んだ空に広がる鱗雲などが目につくとともに街にはキンモクセイの香りが漂います。そのころの時節を秋深しという言葉で表します。また、深秋、秋闌けるともいいます。

 

この時期の寒さを秋寒という言葉で表現します。同様にそぞろ寒、やや寒、うそ寒などという言葉も使われます。いずれも秋が深まり、日ごとに寒さがつのっていくさまを表した言葉です。

 

なお、身に入むという言葉もあります。「みにしむ」と読み、体が感じる寒さではなく心に沁み通っていく寒さのことです。

 

また、秋の朝に感じる寒さを朝寒、夜の寒さを夜寒と呼びます。いずれも晩秋のころ、冬の訪れが近いことを思わせる言葉です。

 

朝寒の膝に日当たる電車かな 宵曲

 

掻き合す夜寒の膝や机下   久女

 

まとめ

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秋に使いたい季節の推移を表す言葉をいくつか紹介してきました。暑さであえいでいた夏が徐々に涼しくなり、やがて寒さに変わっていく。その間に心と体が感じる微妙な変化を捉えた言葉は私たち日本人の財産といえるでしょう。気候の変動によって、自然の微妙な変化を感じとることができる時期が少なくなってきた時だからこそ、これらの言葉を日常的に使っていきたいものです。