立春は春の始まりといわれます。まだまだ寒い季節ですが、立春という言葉を聞くだけで何だかほっこりする、という方は多いことでしょう。もうすぐ暖かな春がやってくるという期待に胸が膨らむからかもしれません。
ただ、春という言葉は正月にも使われます。新春、迎春、初春など様々ありますが、冬のさなかに春という言葉が使われているのです。それでは正月の春と立春の春とは何が違うのでしょうか。また、どちらが春の始まりとなるのでしょうか。
実は両者の違いは暦と二十四節気と呼ばれる季節ごとの区切りを表す単位の使われ方によるものです。大雑把にいってしまえば、暦上の春と二十四節気上の春との違いとなります。
ここではその点についてくわしく解説します。
立春の意味
立春とは二十四節気上の季節の呼び名の1つで春の始まりをいいます。
二十四節気は古代中国で使われていた季節を表す言葉です。太陽の動きをもとに作られた季節の区分であり、農作業や日々の生活の目安として使われてきました。
昼と夜の長さが同じになる春分と秋分、昼がもっとも長い夏至、反対に夜がもっとも長い冬至の二至二分を中心に、立春、立夏、立秋、立冬の四立、さらにそれぞれの間に入る雨水とか処暑とかいった節気から成り立っています。
立春は二十四節気の最初にくる呼び名です。暦上では2月4日頃となります。太陽の動きに左右されるため、毎年同じ日とは決まっていません。注意すべきは立春はその当日のみを指す言葉ではないという点です。
二十四節気では立春の後には雨水がきます。この雨水までの期間を立春と呼ぶのです。
立春は肌感覚からいえば、まだまだ真冬といえるでしょう。しかしこの日が春の始めとされるのは冬至と春分の中間点にあたるからです。
冬至は冬の中心となります。しかし、実際に寒くなるのは冬至から1、2ヵ月後です。太陽光によって地表温度に影響がでてくるまでには一定の時間がかかるからです。
同じことが立春にもいえます。暖かくなるにはまだ日数がかかりますが、冬至と春分の中間にあるところから立春が春の始まりとされているのです。
ちなみに2021年の立春は2月3日となります。
正月の「春」との違い
立春の「春」と正月の「春」は性質が違います。既述のとおり、立春の「春」は太陽の動きに基づいた呼び方です。しかし、正月の「春」は月の満ち欠けを中心とした旧暦による呼び方となります。
旧暦では月が隠れる新月の日を月の始まりとしています。もともと古い時代の日本では1月に入って最初の満月の日を正月として祝っていました。現在、小正月と呼ばれる日がそれにあたります。
やがて1月1日の新月の日を正月とする中国式の考え方が取り入れられるようになり、さらには明治時代になって導入された新暦によって1月1日が正式な正月とされたのです。
ただ、新暦と旧暦とでは約1ヵ月のずれが生じます。旧暦1月は新暦では2月です。そのため、旧暦の正月が立春と重なる春の始め頃であったのに対して、新暦ではまだ真冬ということとなりました。
けれども、旧暦で使われてきた言葉はそのまま新暦でも使われました。それが現在の正月で使う「春」なのです。いわば、人間の都合に合わせて使われてきたのが正月の「春」といえるでしょう。
立春の「春」が自然の運行に見合っているのに対して、正月の「春」は新暦に合わせて使われる人造のものなのです。
「春」は立春から始まる、というのが自然の運行に則した考え方かもしれません。
立春の行事
立春に行われる代表的な行事には次のものがあります。
立春の日に禅宗の寺院では立春大吉と書いた札を貼ります。これには魔除けの意味があるとされています。立春大吉は左右対称となる言葉であるところから、門から入って来た鬼がこの札を見てまだ入っていないと勘違いをして出て行くというのです。
邪気の象徴である鬼を払う言葉として春の始めに使われているのですね。
立春大吉の札は禅宗の寺院だけではなく神社でも扱っています。また、自分で書いて自宅の玄関や部屋の扉などに貼っても良いようです。
立春の朝、井戸から汲んだ水を若水と呼び邪気を払うだけではなく、人を若返らせる力をもつとされてきました。宮中では立春の日に若水を天皇に奉じる行事が行われていたとされています。
現在では元旦の朝汲む水のことを指すことが一般的となっていますが、もとは立春の行事だったのですね。
立春の縁起物とされている食品や飲み物
春が始まる立春には幸運を呼び込む縁起物として供されるようになった食品や飲み物がいくつもあります。ここでは代表的なものを紹介します。
立春大吉豆腐
豆腐には邪気を払う力があるとされてきました。そこで立春前日の節分と立春当日に豆腐を食べて、邪気を払い福を呼び込むことが行われています。このときに食べる豆腐を立春大吉豆腐と呼んでいます。
立春朝搾り
立春の早朝に搾ったばかりの日本酒を頂くことで春の始まりを祝うものです。もともと日本酒の販促を目的として始まったものですが、搾ったばかりの日本酒を神主にお祓いをしてもらうことで縁起物としての地位を確立していきました。
立春生菓子
立春の朝作った生菓子を頂いて幸運を呼ぼうという縁起物です。代表的なものとして桜餅やうぐいす餅があります。また、立春大福や立春大吉餅などもあります。
まとめ
立春は正月とは違って実質的な春の始まりを表す言葉です。まだまだ寒い時期ですが、ときおり陽の光にまぶしさを感じる時節でもあります。縁起物と呼ばれる生菓子をつまみながら、春を感じてみるのもよいのではないでしょうか。