季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

秋天拭うがごとし

秋天拭うがごとし」とは、国木田独歩の名作『武蔵野』に描かれた秋の情景です。武蔵野の美を叙述するにあたって、独歩が自身の書いた日記を参照しているのですが、その中の一節となります。原文はもう少し長く、

 

秋天拭うがごとし、木葉火のごとくかがやく」

(『武蔵野』国木田独歩 より引用)

 

とあり、青く澄み渡った秋の空と炎のように赤く染まった木の葉とが目に浮かんでくるようです。

 

ちなみに、この日記が書かれた日付は9月21日。現在の感覚からすると空の青さは別として、紅葉の部分については少し違和感を覚えてしまいます。『武蔵野』が書かれたときにはすでに暦が新暦へと切り替わっており、独歩が旧暦で日記をつけたとは考えられません。

明治時代は9月も半ばを過ぎるとすでに樹々の葉が赤く色づいていたのでしょうか。現在との違いを感じます。

 

さて、「秋天拭うがごとし」ですが、文字通り拭われたようにきれいな秋の青空のことをいいます。なぜ、秋の空がきれいに見えるのかといえば、この時期に大陸からきて日本を覆う高気圧が乾いていて水蒸気が少ないためとのこと。水蒸気が少ない分、空気の透明さが際立つということのようです。

 

秋天拭うがごとし」を言い換えると、澄んだ空気のもと、雲一つない秋の上天気ということとなるのでしょう。そのような日にあう言葉をさがしてみると、

 

秋日、秋澄む、秋気、爽涼、秋麗、秋色、秋日和、秋高し

 

など色々でてきます。この他、詩や小説のなかにもぴたりとくる描写があるかもしれません。そういった言葉をさがしていきたいと思います。