季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

文学に描かれた季節 初夏 『新茶のかおり』田山花袋

『新茶のかおり』は初夏の魅力が横溢した好エッセイです。

 

「花曇り、それが済んで、花を散らす風が吹く。その後に晩春の雨が降る。この雨は多く南風を伴って来る。」

 

躑躅は晩春の花というよりも初夏の花である。赤いのも白いのも好い。」

 

「初夏の空の碧!それに、欅の若芽の黄に近い色が捺すように印せられているさまは実に感じが好い。何となく心が浮き立って、思わず詩でも低誦したくなる。物が総て光って輝いて明るい。」

(『新茶のかおり』田山花袋

 

いずれも、4月の終わりから5月にかけての季節の移ろいをうまく表している文章だと思います。今の時期、天気予報を観ていますと、太平洋側から日本列島に南風が吹き付けることで雨が降る、といった言葉がよく使われます。「この雨は多く南風を伴なって来る。」という文章はこのことをさしているのでしょう。何やら新しいことを発見したようで楽しくなります。

 

「新茶のかおり、これも初夏の感じを深くさせるものの一つだ。雨が庭の若葉に降濺ぐ日に、一つまみの新茶を得て、友と初夏の感じを味ったこともあった。」

(『新茶のかおり』田山花袋

 

私はコーヒー党で、あまり緑茶を飲みません。けれども、このような文章を読むと無性に緑茶が飲みたくなります。初夏をイメージする緑色に誘われるような気持ちになるのです。

 

「楓の若葉は赤いのよりも緑なのが好いと私は思う。」

(『新茶のかおり』田山花袋