正月の縁起物として飾られる鏡餅。年末になるとデパートやスーパーでは特設コーナーが設けられ、正月飾りの定番として売られています。
しかし、なぜ鏡餅と呼ばれるのでしょうか。正月用のお供えであれば単に餅だけでもよいと思うのですが、そこに鏡という言葉がつく意味は何でしょうか。
実は、鏡は神の依代とされており、そこに米を神聖なものとする稲作信仰とが合わさったものが鏡餅といわれています。
ここでは、鏡餅の鏡の意味と餅との関係について解説していきます。
鏡とは何か
鏡は古くから神様が宿る依代として、また祭祀を行う際に使われる神聖な道具として考えられてきました。
古事記や日本書紀には天照大神が鏡を自分と同じものと考えるように命じたことが書かれています。これは鏡が神の依代とされたことを示しています。ちなみに天照大神が自身の分身として示した鏡は八咫鏡(やたのかがみ)と呼ばれ、三種の神器の1つです。
また、古代中国から渡ってきた鏡は日の光のもとで輝きを放ち、そのようなものを見たことがなかった日本人は鏡に対して特別な感情をもつようになったといわれています。もともと日本では天照大神を太陽神として祀っていました。その信仰と日の光を浴びて輝く鏡とが結びつき、鏡を天照大神の分身として考えるようになったとされているのです。
さらに、古墳からは多くの鏡が発見されており、このことは鏡が祭祀の道具としても使われていたことを示しています。
日本人にとって鏡とは神の依代であり、祭祀にあたって使われる神聖な道具だったのです。
鏡と餅の関係
餅は神の依代とされた鏡にみたてられました。餅もまた鏡と同じく神の依代とされたからです。
餅の原料となる米は日本人の主食であり、農業技術が発達していなかった古代社会では、その栽培は自然の力に多くを依存していました。そのため、季節ごとに豊作を神に祈る行事が人々の生活の中心をなしていたのです。現在でも、豊作を祈願する行事は田の神祭りとして知られ、全国で行われています。
このようにして栽培された米から作られる餅には神が宿るとされました。すなわち依代と考えられたのです。また、年の初めにその餅を食べることで神の力をもらうことができるとも考えられました。
この餅を同じ丸形をした鏡にみたてたのが鏡餅です。餅を神聖な道具である鏡と同じものと考えることで福をもたらす神を招き入れ、その力をいただこうとしたのですね。
正月に鏡餅を飾ることで歳神の依代とし、鏡開きによってその餅を食べることで神様の力を身内に取り込む。このような意味が鏡餅にはあるのです。
まとめ
鏡とは神の依代であり、祭祀に使われる神聖な道具でした。一方、餅も神の依代であるとともに神の力が宿るものとされました。鏡餅はこれら2つが結びつき、正月に飾る縁起物として現在まで受け継がれているのです。