季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

冴え返る

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冴え返るとは、春になって暖かい日が続いた後に真冬の寒さが戻ってくることをいいます。俳句の季語の一つであり、暖かくなったり寒くなったりを繰り返す春の特徴を表した言葉として知られています。

 

ちなみに、冴え返るは、冴えると返るという二つの言葉が一つになったものです。

 

このうち「冴える」の意味として、私がもっている国語辞典には次のように書かれています。

 

① 強い寒さのために神経が張り詰める感じ

② 光、音、色などがはっきりしたものとして感じられる

③ 目や頭などの働きがはっきりする

④ 元気で生き生きする

 

また、歳時記には、春の暖かさになれた頃にやってくる寒さのため、心身ともに真冬の澄み渡った感覚が再び呼び覚まされる、とあります。

 

暖かな春の陽気に包まれて幾分か気持の緩んだときに、急に寒くなることで、再び真冬の張り詰めた感覚が呼び戻され、ものごとがはっきりとするという意味をもつ言葉が「冴え返る」なのです。

 

なお、冴え返るは、余寒と同じ意味で使われていたこともあったようです。余寒とは立春を過ぎてからもなお寒さが残っていることをいいます。しかし、冴え返るは、暖かな日のなかで感じる急な寒さのことです。また、寒さによって呼び覚まされた緊張感からものごとが明瞭になるという意味ももっています。寒さだけではない点、余寒とは違った意味合いをもった言葉といえるでしょう。

 

個人的には冴え返るという言葉からは、冬の初めに感じる心身ともに引き締まった感じと同じものを連想させます。これから寒くなっていくことに対する心構えといったものが再び戻ってくる感じがしてうれしくなります。

 

私は、冬の初めに万象が寒さによって日々引き締まっていく感覚が好きなので、冴え返るという言葉にも同じ意味を感じて親しみをもっているのです。

 

ただし、それは言葉のうえだけのことで、現実に冴え返るという事象が起きるとやりきれなくなります。寒いよりも暖かいほうがいいからです。