季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

『ソロー日記 秋』H.G.O.ブレーク編

H.G.O.ブレークが編集したヘンリー・ディヴィット・ソローの日記を読みました。春夏秋冬の季節ごとにまとめられた日記で、今回読んだのはそのうちの秋の部にあたります。9月の末から12月の終わりまでが収録されており、秋から冬にかけてのウォ―ルデン湖周辺の季節の変化が抒情的な筆致で描かれています。

 

とにかく、読んでいて気持ちが好い本です。日記のなかには様々な動植物の名前がたくさん登場します。私はそのほとんどについて知識がないのですが、そのことが苦になることはありません。ひとつひとつの形状よりもそれらが一体となった自然そのものの描写のほうに心が魅かれるからです。

 

「ヒイラギガシのある平原は濃い赤であり、灰色をし枯れたホワイトオークの葉と混じり合っている。コガラも勇気づけられ、暖かい岩の上のほうでさえずっている。カンバ、ヒッコリー、ポプラなどは湖のまわりの丘の斜面で小さな無数の炎のようである。そして湖は秋の色をした森と丘で囲まれ、今もっとも美しい。」

(『ソロー日記 秋』H.G.O.ブレーク編 山口晃約より)

 

日記ではこのような描写が続き、文章の流れに身をゆだねていくことに夢中になってしまいます。頭の中で、実際には見たことのないコンコードの秋が広がっていくようです。想像の世界に遊ぶ、という言葉を聞きますが、その意味がわかるような気持になります。

 

さて、ソローの日記を読んでいると、彼がより良い生活を送るためには足るを知ることが大切、ということを考えているのではないか、と思う箇所がいくつかでてきます。

 

「果実はどんなものでも集める。そういった生活の素朴な技能をたえず実践することを、私は熱望してきた。だがもしもあなたが節度をわきまえず、必要以上の量を集めることに骨を折るようであるなら、小麦の大量の収穫量でさえもつまらないものになるだろう。

 私たちの暮らしが誠実になされるなら、おのずから他の楽しみも見出される。」

(『ソロー日記 秋』H.G.O.ブレーク編 山口晃約より)

 

必要以上のものは求めず、節度のある生活を送っていく。ソローに限らず様々なところでいわれていることですが、実際には難しいことなのでしょう。ただ、現代の社会が抱える問題の原因の多くが、この点にあることを思うと、せめて自分だけでも襟を正す必要があるのかな、と思いました。