季節の言葉

四季折々の言葉や行事を綴っていきます

社日とは何か?意味と由来を解説します

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社日という言葉を日常的に使っている方は少ないのではないでしょうか。また、社日という言葉自体一般的ではないので、その意味すらわからないという方のほうが多いかもしれません。

 

実は、社日とは雑節の1つで、春と秋に土地の守り神とされる産土神(うぶすながみ)を祀る行事が行われる日のことをいいます。ただし、他の雑節、たとえば、節分や彼岸と比べるとあまり知られてはいないようです。

 

ここでは、そんな社日について意味と由来を解説します。

 

社日の意味と由来

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社日とは、春分秋分にもっとも近い戊(つちのえ)の日に行われる行事のことをいい、雑節の1つです。雑節とは農作業の指標として作られた暦のことをいいます。社日は春の種まきと秋の収穫の時期に産土神を祀り、その年の無事安穏と豊作を祈る日とされているのです。

 

産土神とは、生まれた人とその人が住む土地を守る神のことです。土地にはもともとその土地の守護神となる産土神がいるとされてきました。そして、産土神はその土地で生まれた人を、たとえその人が生まれた土地を離れ、どこに行こうが死ぬまで守るといわれています。そのため、人は産土神を祀ることで無事安穏を祈るようになりました。この産土神のことを「社」と呼び、それを祀る日が社日なのです。

 

ちなみに社日に祀る神のことを氏神と呼ぶこともあります。こちらは特定の土地の守護神ではありません。特定の人を中心とした一族を守る神のことをいいます。もとは違った神であったのです。しかし、時代が進むにつれて産土神氏神とが同じような意味で使われるようになり、今ではほぼ同じ神として認識されるようになりました。

 

そのため、社日に祀る神を産土神とは呼ばず氏神としているところも多いようです。

 

また、先述したように社日は年2回、春分秋分にもっとも近い戊の日に行われます。春に行われる社日を春社、秋を秋社と呼びます。

 

戊とは陰陽五行説でいう十干の1つ。陰陽五行説とは、この世に存在するあらゆるものは木火土金水(もっかどごんすい)の五行から成り立っているとする考え方です。また、十干とは万物の盛衰を表す10の言葉(甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸)をいいます。十干は、五行の性質に沿って配置づけられており、戊は土の気に配されています。さらに、土の気は土地の神である産土神と関係が深いとされました。

 

そこから、社日は、春分秋分に近い戊の日に産土神を祀ることでその年の豊作を祈念し祝うものとされてきたのです。

 

社日の行事

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社日には全国で様々な行事が行われます。興味深いのは土地の神である産土神を祀るのではなく、春になると山から里に降りてきて、秋には再び山に帰っていく神を祀る地域があることです。長野県小県郡ではこのような神を「お社日様」と呼び、供物を供えて祀るとしています。

 

また、福岡県の博多ではお潮井取りという行事が行われます。博多湾に面した箱崎浜の砂を社日に「てぼ」と呼ばれる竹で編んだかごに入れて玄関につるし厄除けにするというものです。

 

土地ごとに神の性質や祀る方法が違うため、社日の行事にも様々な形があるのです。

 

まとめ

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社日について解説してきました。社日は昔から雑節の1つでしたが、現在の暦のもととなる暦象年表には記載がありません。しかし、地域社会の無事安穏とその年の豊作を願う社日の行事は全国で行われています。

 

彼岸や節分といった他の雑節の行事とは違ってなじみは薄いですが、私たちの先祖の心を伝える行事として大切にしていきたいものです。

 

土用の丑の日は夏だけじゃない。土用の意味と丑の日の関係を解説!

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土用の丑の日といえば、夏の風習として定着しています。真夏の暑い日々を乗り切るためにウナギを食べてスタミナをつけようというのがその理由です。

 

しかし、土用の丑の日といっても真夏の特別な一日として決まっているわけではありません。

 

実は土用の丑の日は毎月めぐってきます。さらにいうならば、土用も夏だけではなく、春夏秋冬のいずれの季節にもあるのです。

 

そこで、ここでは土用の意味と土用の丑の日について解説します。

 

土用の意味

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土用とはものを変化させる働きのことをいいます。これは古代中国に起源をもつ陰陽五行説の考え方です。宇宙は、木、火、土、金、水の5つの気によって作られており、土用はそのうちの土の気にあたるものとされているのです。

 

土に蒔かれた植物の種が収穫されるところから、土にはものを変化させる力があるとされました。その働きを土の気と呼んでいるのです。これは、土旺用事(どおうようじ)という言葉で表現されており、それがつまって土用となったとされています。

 

また、土用は雑節の1つでもあります。陰陽五行説では5つの気を四季にあてはめています。春が木、夏が火、秋は金、冬が水です。土はものの変化をうながす働きがあるとされるため、それぞれの季節の前におかれました。

 

すなわち、二十四節気立春立夏立秋立冬になる前の約18日間を土用としたのです。

 

いわば、季節が変わる前のウォーミングアップ期間を土用と呼ぶといってよいかもしれません。雑節は農作業の指標として季節の変化を表す暦なので、その1つとして土用が含まれているのです。

 

土用の丑の日が夏のものとされる理由

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土用の丑の日が夏のものとされる理由は、江戸時代に平賀源内によって作られたキャッチコピーが全国に広まったためといわれています。

 

もともと、暑い夏には頭に「う」の字のつく食べ物を食べるのが良いという風習があり、平賀源内のキャッチコピーはこの風習にのってヒット。それが現在にまで続いているというわけです。

 

現在では、土用の丑の日とは、立秋前の暑い盛りにウナギを食べてスタミナをつけ、真夏を乗り切ろうという日、というのが当たり前のようになっています。さらに、土用といえば夏といったイメージも社会には浸透しています。しかし、その由来をみれば、うなぎ屋さんを応援するキャッチコピーから始まっていたのですね。

 

なお、ここでいっている丑の日も土用と同じく陰陽五行説からきています。すなわち、子、丑、寅という言葉が表す十二支は時間と方位を示しており、日の数え方も子の日を最初として亥の日を最後とする12日間を1つのサイクルとして考えられてきました。

 

そのため、季節とは関係なく12日ごとに丑の日は到来します。土用の期間は約18日間あるので、年によっては2回、土用の丑の日がくることもあるのです。それでは、夏土用の期間に丑の日が2回来た年はウナギも2回食べなければならないのでしょうか。

 

答えは否。というよりも好みで1回でも2回でも食べてかまいません。もともとが販促用のキャッチコピーから生まれた風習なので、特別な禁忌などないからです。

 

季節ごとの土用に食べたいもの

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土用は、本来は季節の変化を表す言葉であり、夏限定のものではありません。そのため、土用にはその季節にあった食べると良いとされるものが決められています。季節が変わる時期は体調にも変調をきたしやすく、それを避けるためにそのときに採れる旬のものを食べることがすすめられてきたのです。

 

春土用

立夏の約18日前の期間、4月下旬から5月上旬までを春土用と呼びます。この時期には頭に「い」の字がつくものや、色の白い食べ物がおすすめとされています。

 

イチゴ、いわし、芋、大根、インゲン豆といった食べ物が例としてあげられます。

 

夏土用

立秋の約18日前の期間、7月下旬から8月初旬までを夏土用と呼びます。この時期には頭に「う」の字がつくものや、色の黒い食べ物がおすすめとされています。

 

先述したウナギの他に梅干しや瓜の仲間であるかぼちゃ、スイカといった食べ物があげられます。

 

秋土用

立冬の約18日前の期間、10月下旬から11月初旬までを秋土用と呼びます。この時期には頭に「た」の字がつくものや、色の青い食べ物がおすすめとされています。

 

大根やたまねぎ、さんまやサバといった青魚がそれにあたります。

 

冬土用

立春の約18日前の期間、1月下旬から2月初旬までを冬土用と呼びます。この時期には頭に「ひ」の字がつくものや、色の赤い食べ物がおすすめとされています。

 

代表的な食べ物としてひらめやトマトがあります。

 

まとめ

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土用と土用の丑の日について解説してきました。土用は陰陽五行説をもととして誕生し、それが季節の変化の指標として雑節と結びついて今日まで伝わったものです。それに対して土用の丑の日はキャッチコピーが社会に定着し風習となりました。

 

昔からの考え方が特定の商品と結びついたことで1つの風習を形作った、というのはとても興味深いことですね。

 

二百十日と二百二十日 何が違う?

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二百十日と二百二十日。このうち、二百十日はよく聞く言葉だけれども、二百二十日とは何だろう。何か取り立てて違いがあるのだろうか。このような疑問をもつ方は多いのではないでしょうか。

 

実は二百十日も二百二十日もともに台風が来る厄日とされている日なのです。稲作を行うにあたって出穂期の管理はとても重要ですが、その時期が二百十日と二百二十日の両日と重なるとされているため、昔から恐れられてきたのですね。

 

ここでは、そんな二百十日と二百二十日について解説します。

 

二百十日、二百二十日とは?

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二百十日と二百二十日はともに雑節の1つです。雑節とは二十四節気では表しきれない季節の変化を示した暦です。たとえば、節分や春秋の彼岸、八十八夜といったものがあります。雑節の日取りは二十四節気立春の初日を基準としており、節分なら立春の前日、八十八夜なら立春から数えて八十八日目といった具合に決められています。

 

二百十日立春から数えて二百十日目、二百二十日は二百二十日目の日となっているのです。新暦でいえば、二百十日は毎年9月1日頃、二百二十日は9月10日頃となります。この時期は1年のうちでもっとも多く台風が襲来する時節です。稲作農家にとっては10月の収穫期を前にした大切な時期であり、台風への警戒が欠かせません。

 

そのため、二百十日と二百二十日は稲作への台風被害に備える日として雑節に取り入れられたのです。

 

また、昔から二百十日と二百二十日の両日に八朔を加えた3日を三大厄日と呼んで、恐れられてきました。八朔とは旧暦8月1日のことで、本来はその年の豊年を祈願する祭りを行う日です。しかし、この時期は新暦でいえば9月上旬であり、台風被害に注意しなければならないときでもありました。

 

そのため、二百十日、二百二十日に八朔を加えた3日が三大厄日とされたのです。

 

なお、9月1日は関東大震災が起きた日であり、防災の日としても知られています。二百十日、二百二十日ともに自然災害に備える日と考えてよいでしょう。

 

二百十日、二百二十日の違いは?

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二百十日と二百二十日はともに台風に警戒する日という点で違いはありません。しかし、稲作という視点でみると違いがあることがわかります。米には品種によって栽培時期が異なるものがあり、栽培時期が早い米を早稲(わせ)、遅い米を晩稲(おくて)、その中間を中稲(なかて)と呼んでいます。それぞれ10日ないし20日ほどの間隔が空いており、この期間を二百十日、二百二十日とで分けているのです。

 

台風は何度もやって来ます。二百十日の後でさらに二百二十日という節気が設けられているのはこの現象を考慮したものといえるでしょう。

 

二百十日、二百二十日の行事

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二百十日、二百二十日の行事にはともに台風への備えとして風を鎮める行事が行われてきました。有名なのが富山県八尾市で行われるおわら風の盆です。風を鎮めてその年の豊年を願うために行なわれる行事で、毎年9月1日から3日にかけて行われます。暗い夜道に灯るぼんぼりの間を踊っていく幻想的な姿が人気で全国から観光客が集まります。

 

まとめ

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二百十日と二百二十日の違いについて解説してきました。台風への備えという意味では同じですが、台風が何度も来ることへの警戒を促すためにあえて二百二十日を加えた点に昔の人の知恵を感じます。

 

半夏生とは何か?意味をわかりやすく解説!

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半夏生は雑節の1つで梅雨明けから本格的な夏に向かう時期を表した言葉です。半夏生(はんげしょう)と読みます。あまり一般的に使われる言葉ではないので、名前だけは知っていても詳しい意味まではちょっとわからない、という方は多いかもしれません。

 

実は半夏生とは季節の変化だけではなく、同じ名称の植物を指す言葉としても使われています。ドクダミ科の多年草植物として知られる半夏生がそれです。

 

ここでは、1つの言葉にいくつもの意味が含まれる半夏生について解説します。

 

半夏生の意味

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半夏生という言葉は、雑節、七十二候、植物といった3つのカテゴリーに分けて使われています。

 

雑節

半夏生は雑節の1つです。雑節とは農作業の指標とされる二十四節気の足りない部分を補うために作られた日本固有の暦のことです。

 

二十四節気夏至から数えて11日目を半夏生と呼んでいます。7月2日から7月6日頃までがその期間とされていますが、二十四節気を基準にしているので毎年日取りが決まっているわけではありません。

 

半夏生の頃は梅雨明けも近い時期で、昔から半夏生の日までに田植えを終わらせなければならないとされてきました。もし、田植えが終わらなければ、その年の収穫が減ってしまうといわれていたのです。

 

現代のように機械化が進んでいなかった時代、田植えには時間がかかっていました。もしも、決まった時期までに田植えが終わらなければ、次の作業の取り掛かることができず、結果として収穫が減ってしまうということがあったのでしょう。

 

また、先述したように梅雨明けにあたるこの時期は大雨が降るときでもあります。このときに降る雨のことを半夏雨(はんげあめ)と呼んでいます。

 

七十二候

半夏生は七十二候の1つでもあります。七十二候とは二十四節気を節気ごとにさらに細かく3つに区分したものです。1つの候は5日間で、半夏生の場合は雑節の日取りと同じく7月2日から6日までがそれにあたります。

 

言葉の意味は雑節でいう半夏生と変わりはありません。しかし、字の読み方が違っており、こちらは(はんげしょうず)と読みます。

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植物

半夏生には先述したとおり同名の植物があります。花をつける時期が半夏生と重なるだけではなく、その頃になると葉が半分ほど白くなる習性があり、そこから半化粧と呼ばれ、転じて半夏生となったという説がある植物です。

 

また、半夏という名前の植物もあります。こちらは正式には、カラスビシャクと呼ばれるサトイモ科の植物です。薬用の効果があり、漢方の生薬として有名です。

 

半夏生の風習

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半夏生の風習には、禁忌とされることとこの時期に食べる物の2つがあります。

 

禁忌

半夏生の日は天から毒が降ってくると考えられていました。そのため、その日は井戸に蓋をして井戸水を飲まないようにすることが行われていました。また、半夏生の日に採った野菜は食べないともいわれています。さらには、三重県の一部の地方ではハンゲという名の妖怪が徘徊するとされ、その日は外出を控えるといったことも行われたようです。

 

これらの禁忌は激しい農作業で疲れた体を休めるために考えられたものとされています。

 

食べ物

半夏生にはタコを食べる、というのが関西地方を中心に行われている風習です。タコが8本の足にある吸盤でものに吸い付くところから、半夏生までに植え終えた苗が田にしっかり根付くようにとの願いをこめて食べられてきたといわれています。

 

まとめ

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半夏生について解説してきました。半夏生は田植えを終える時期の目安として用いられ、その後は疲れた体を強制的に休ませるために様々な禁忌が考え出された節気です。また、季節の変化だけではなく、同名の植物もあります。

 

半夏生は日常的に使われているわけではありませんが、豊かな意味が含まれた言葉ということができるでしょう。

 

入梅と梅雨入りに違いはあるのか?

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毎年5月の終わりから6月にかけて日本では梅雨の時期に入ります。早いところでは5月半ばには既に梅雨入りする地域もあります。

 

ところで、梅雨に入る時期のことを入梅ともいいます。梅雨入りと入梅はともに同じ意味をもっているように思えますが、本当はどうなのでしょうか。

 

実は、梅雨入りと入梅は本来、違う意味をもった言葉なのです。

 

ここでは、そんな梅雨入りと入梅について解説します。

 

入梅とは何?

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入梅とは雑節の1つで、暦のうえで梅雨に入る日のことをいいます。あくまでも暦上の目安であり、実際の気候とは関係はありません。

 

雑節とは二十四節気以外に農作業の指標とされてきた節気のことで、八十八夜や二百十日などがあります。入梅もそのうちの1つで、二十四節気のなかの芒種初日から5日目とされています。芒種の初日は毎年6月6日頃とされているところから、入梅は6月11日頃となります。

 

農作業、特に稲作を行うにあたって梅雨入りの時期がいつになるのかは、とても重要なことでした。そのため、入梅という節気を決めることで農作業の目安としたのです。

 

梅雨入りとは何?

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梅雨入りとは、実際に梅雨の時期に入ることをいいます。ただし、梅雨入りには決まった定義はありません。過去の観察記録をもとに今後の週間天気予報などを考慮して決められているのです。そのため、梅雨入り宣言が出された後も、実際の天候の状況によっては宣言の日が変動することがあります。

 

日本列島は南北に細長いので、梅雨入りの時期も地域によって異なり、場所によっては1ヵ月程度の開きがみられます。

 

入梅と梅雨入りの違い

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入梅と梅雨入りには、前者が暦上で決められたもの、後者が実際の気象観測によって決まるものといった違いがあります。

 

入梅は日本人が農作業の指標として使ってきた雑節の1つであり、必ずしも現実の気象に則したものではありません。それに対して梅雨入りは気象庁の観測によって決められる実際の梅雨の始まりをいいます。

 

そのため、気象庁では入梅については使用を控える用語としており、梅雨の時期に入ることを梅雨入りとしています。なお、手紙の書き出しにある時候の挨拶のように季節の情感を表す場合には入梅を使うことが多いようです。

 

まとめ

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入梅は昔から梅雨に入る時期を表す目安として使われてきました。あくまでも目安であって厳密なものではありません。そのため、正確さが要求される現代社会では気象用語としては使われておらず、それに代わる言葉が梅雨入りなのです。

 

しかし、入梅は日常の挨拶などで頻繁に使われています。気象用語というよりは季節の変化を表す言葉として社会に定着しているのが入梅ということができるでしょう。

 

雑節とは何か?意味と成り立ちを解説します

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日本の四季を表す言葉として二十四節気が有名です。しかし、この他にも八十八夜や二百十日、さらには入梅という言葉がそのときどきの季節を表すものとして使われています。

 

実は、これらの言葉も二十四節気と同じく四季の移り変わりを示すものとして同一のカテゴリーにまとめられているのです。このカテゴリーの総称を雑節と呼びます。日本人は二十四節気以外にも季節の変化を示す言葉を使ってきたのです。

 

ここでは、雑節について意味と種類、さらには成り立ちを解説していきます。

 

雑節の意味と種類

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雑節とは、農作業の指標として二十四節気の他に考えられた節気のことです。有名なものに八十八夜、二百十日などがあります。

 

太陽の動きをもとに考えられた二十四節気は、農作業の指標として使われているのですが、もともとは中国で考案された暦です。中国と日本では気候が違うため、そのままでは使い勝手がよくない点がありました。

 

そこで、二十四節気では足りない部分を補う形で作られたのが雑節なのです。

 

雑節には次のように9つの種類があります。

 

節分・彼岸・社日・八十八夜・入梅半夏生・土用・二百十日・二百二十日

 

これらのうち、国立天文台が発行している日本の公式な暦である暦象年表に記載されているのは「社日」と「二百二十日」を除いた7種類です。

 

雑節の成り立ち

ここからは「社日」と「二百二十日」を除いた雑節の成り立ちについて解説していきます。

 

節分

節分には季節を分けるという意味があります。そのため、二十四節気立春立夏立秋立冬の前日が節分とされています。しかし、立春前日の節分は一般的に使われていますが、その他の節分が意識されることはほとんどありません。

 

その理由として、旧暦の立春新暦の正月にあたり、その前日の節分は、いうならば大晦日であったところから1年のうちでも歳が改まる特別な日とされてきたことがあげられます。

豆まきや柊鰯を飾るといった風習は、邪気をはらい新しい年を迎える行事として行われてきたのです。

 

立春前日の節分以外に行われる行事はなく、このことも他の節気の節分が意識されなくなった原因といえるようです。

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彼岸

彼岸は先祖を供養する日であり、自身が悟りを得るための修行の時期といわれています。

 

もともと、なくなった先祖が住む場所を彼岸といいました。これに対して生きている私たちが住む場所は此岸と呼びます。

 

仏教では、春分秋分の両日は昼と夜の時間が同じであるところから、彼岸と此岸とが通じやすくなるといわれています。そのため、彼岸とは先祖を供養する日とされたのです。

 

また、彼岸の時期は春分の日秋分の日を真ん中にした前後7日間です。彼岸の初日を彼岸の入り、真ん中を彼岸の中日、最後の日を彼岸明けと呼んでいます。このうち、彼岸の中日は先祖を供養し、それ以外の日は自身が悟りを得るための修行にあてるというのが本来の彼岸の過ごし方だったのです。

 

八十八夜

八十八夜とは、遅霜に注意を促す日です。

 

立春から数えて八十八日目の夜を八十八夜と呼んでいます。この時期は放射冷却の影響で早朝、霜が降りることがあります。これを八十八夜の忘れ霜と呼んで、昔から農作物が被害を受けないように注意してきたのです。

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入梅

入梅とは、暦上の梅雨入りのことです。実際の梅雨入りは各地域の気象状況によって決まりますが、昔は農作業の指標として暦のうえで梅雨入りの時期を決めていました。これを入梅と呼ぶのです。

 

半夏生

半夏生とは、田植えを終えなければならないとされていた時期のことです。具体的には夏至から数えて11日目にあたる7月2日頃から7月7日までの5日間をいいます。

半夏生までに田植えを終えることができないと、その年の収穫が減ってしまうとされていました。また、半夏生の期間は、働いてはならないとされ、様々な禁忌がありました。たとえば、この時期は空から毒が降るので井戸には蓋をする、また、この時期に収穫した野菜は食べてはいけない、などとされたのです。

 

半夏生には農作業を終える目安としての意味があり、それを守らせるために様々な禁忌がいわれるようになったのでしょう。

 

土用

土用とは陰陽五行説に由来する言葉で、土は種子を発育させるところから物事の変化を促すとともにその変化を保護する働きがあるとされました。

 

陰陽五行説では春は木、夏は火、秋は金、冬は水といった具合にそれぞれの季節を象徴する気をわりあてています。土は物事の変化を促す気とされるところから、これらの季節の変わり目を示す象徴とされるようになっているのです。

 

そのため、古くから立春立夏立秋立冬となる18日前を土用の入りと呼び、季節が変わる目安としてきました。ちなみに土用の最後の日が節分です。

 

現在では土用といえば夏にだけあるものと一般的には考えられていますが、本来は春夏秋冬すべての季節にあるものだったのです。

 

二百十日

二百十日とは立春から数えて210日目となる日のことです。この時期は台風がやって来る季節で農作物への被害が心配されます。特に稲の開花期と重なるため、農家では厄日として警戒されてきました。ちなみに雑節には二百二十日という節気もありますが、こちらも意味は同じです。ただし、台風による被害という視点からいうと二百二十日のほうがより深刻になるといわれています。

 

まとめ

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雑節は、直接農作業の指標とされるものと、季節の変化を表すものとに分けることができます。八十八夜、入梅半夏生二百十日は前者に、節分、彼岸、土用は後者にあたるものといえるでしょう。

 

また、雑節のなかには節分や彼岸など季節を彩る国民的な行事として今でも続けられている行事がある一方で、名前だけになってしまっているものもあります。時代とともに行事も薄れていくのは仕方のないことですが、その行事に込められた先人のこころは大切にしていきたいものです。

 

夏至とは何か?二十四節気を解説!

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夏至二十四節気の1つで、夏の部の4番目にくる節気です。夏至の初日は1年のうちでもっとも昼が長い日とされ、太陽の恵みに感謝する夏至祭が日本だけではなく、世界各地で行われます。スウェーデンフィンランドなど北欧諸国の祭りが有名ですが、日本でも二見興玉神社夏至の祭りが行われます。太陽の力を特別なものとみる風習は洋の東西を問わないということなのでしょう。

 

ただし、日本における夏至の期間は梅雨の時期にあたっていて雨が降る日が多いため、昼の時間が長いとはいっても実際の日照時間は長くありません。

 

ここではそんな夏至について解説します。

 

夏至はいつ?

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夏至は毎年6月21日から7月6日頃までをいいます。ただし、日付が特定されているわけではなく、年によって1日ないし2日程度ずれることがあります。その理由は、二十四節気の決められ方によるものです。

 

二十四節気とは、太陽の動きを基に農作業の指標となるように考えられた暦のことをいいます。春夏秋冬の4つの季節をそれぞれ6等分して全体を24に分け、それぞれに名前をつけて、日々の暮らしの指標としたものです。

 

二十四節気は太陽の動きを基準にして作られた暦であるため、その日取りには毎年いく日かのずれが生じます。夏至の日取りもそのずれに応じて決まるため、日付が決まっていないのです。

 

二十四節気の夏の部は、立夏小満芒種夏至小暑大暑の順に並んでおり、夏至はそのうちの4番目となります。

 

2024年の夏至は、6月21日から7月6日までです。

 

夏至の意味

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夏至の期間は前述のとおりですが、そのうち初日については1年を通してもっとも昼の時間帯が長い日とされています。反対に昼の時間がもっとも短いのは冬至の初日です。その日を境に長くなってきた昼の時間が夏至に至って頂点に達し、再び短くなっていく。このサイクルが毎年繰り返されているのです。二十四節気冬至を起点として考えられた暦なので、夏至は1年の折り返し点ということができるでしょう。

 

なお、冬至夏至の2つの節気を合わせたものを「二至」(ニシ)と呼び、これに昼と夜の長さが同じとなる、春分秋分を加えて「二至二分」と呼んでいます。

 

さて、夏至は梅雨の時期と重なるため、昼の時間の長さを実感することはあまりありません。気象庁が公開している1991年から2020年までの日照時間のデータによれば、夏至の時期の日照時間は最大でも4.4時間。ちなみに冬至の頃の日照時間は最大で6.3時間となっています。冬至のときのほうが日照時間は長くなっているのです。

 

夏至は太陽の恵みに感謝する祭りが行われる時期ですが、梅雨の影響で実際の日照時間は冬至のときよりも少ないのですね。

 

夏至の行事

夏至に行われる行事としては二見玉興神社の夏至祭が有名です。また、歴史は浅いのですが夏至の夜にろうそくの光だけで過ごすキャンドルナイトという催しも行われます。

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二見玉興神社

三重県伊勢市にある二見玉興神社では夏至の早朝、海上から昇る太陽を拝する夏至祭りが行われます。神社のある二見浦には鳥居にみたてられた夫婦岩と呼ばれる一対の岩があり、その間を昇っていく朝日を浴びて禊修法が取り行われるのです。

 

禊によって心身ともに浄化されるとされています。

 

キャンドルナイト

キャンドルナイトは、2003年から夏至冬至の日に毎年行われている催しです。「でんきを消して、スローな夜を」を合言葉に、夜8時から10時までの2時間にわたって電気を消し、ろうそくの光のもと、私たちを取りまく環境や社会問題について静かに考えようというのが催しのコンセプトとなっています。

 

いわゆるSDGs運動の一環として「誰ひとり取り残さない社会」の実現について考えるイベントです。

 

まとめ

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夏至は1年のうちでもっとも昼間が長い時間とされる日ですが、梅雨時でもあり、実際の日照時間は短く、太陽を意識することはあまりありません。

しかし、1年の折り返し点という意義はあり、しかもこれは日本だけではなく世界共通の事象です。キャンドルナイト夏至冬至の日に行われる理由も、それらの日が人間の都合とは関係なく、自然の運行によって必然的に到来するところにあるといわれています。

 

夏至の夜には、静かに自分の生き方を振り返ってみるのもよいのではないでしょうか。